ここでは、私が大学の卒業論文のテーマについてご紹介します。
それは、
オーストリアの哲学者マルティン・ブーバーの著書『我と汝』を元に、
私が人間関係について考察したものです。
実際にマルティン・ブーバーが書いた「我と汝」ではありませんので、
ご注意ください。
ブーバーの著書『我と汝』を参考にすると、
人間関係には2つの形態があると考えられます。
1つは「我とそれの関係」、
そしてもう1つが「我と汝の関係」です。
コミュニケーションを行うためには、
自分と相手の少なくとも二人の人間が必要です。
そして、その相手をどのような存在として扱うかによって、
「我とそれの関係」または「我と汝の関係」に分かれるのです。
「我とそれの関係」の「それ」とは物という意味です。
すなわち、「我とそれの関係」では、
相手は人間でなく、物として認識しています。
「相手は人間なんだから、物として認識するなんてありえない」
とみなさんは思われるかもしれません。
でも、現実の世界では、それが往々にしてありえるんです。
具体例をあげて説明しましょう。
私は大学時代授業をまじめに聞いていました。
別に勉強が好きだった訳ではありませんが、
外国の大学のように授業が厳しく、
成績が悪いとすぐに留年、
場合によっては強制退学させられてしまうような学校でしたので、
貧乏学生で要領の悪い私は、
どうしても4年で卒業するために、
仕方なく勉強をしていました。
ノートもしっかりとっていました。
おかげさまで、成績も良い方でした。
それは私が特段優秀だったわけではなく、
周囲がサボってくれていたので、
相対的にそうなったに過ぎません。
ただ周囲には私が勉強していることを知っていましたので、
テスト前になると
普段つきあいのないクラスメイトから
やたら電話がかかってきました。
内容は決まって
「ノートを見せてほしい」、
「勉強を教えてほしい」
というものでした。
彼らは私をテストに合格するための道具、
すなわち「物」として認識していた訳です。
テストに合格したいのは私も同じです。
その時も、私はテストに合格するために
必死で勉強をしていました。
しかし、
彼らは私のそうした状況なんておかまいなしに、
自分の目的を達成するためだけに
私の貴重な勉強時間を妨害してきたのです。
これが「我とそれの関係」です。
では、「我と汝の関係」とはどういうものでしょうか。
これは相手を一人の人格のある存在として尊重する関係です。
実は「我と汝の関係」は現実の世界では
なかなか見るケースが少ないと言わざるを得ません。
たとえば、あなたにお子さんがいると仮定して、
わが子の将来のために「勉強しなさい」と言ったとしましょう。
これ自体は決して悪いことではありません。
親が子供の将来を心配して働きかけることは
親として当然の行為です。
しかし、自分の価値観を一方的に押し付けたりしていませんか?
場合によっては、
世間体だとか、
兄弟姉妹、クラスメイトとわが子を比較したり
していませんか?
もしそうしたことをしているのであれば、
それは「我とそれの関係」になっています。
なぜなら、それは、
親の欲望を実現するために子供を利用しているのと同じだからです。
では、
「我と汝の関係」にするためにはどうしたら良いのでしょうか。
それは「子供」を一人の人間として尊重し、
「子供の意志」を尊重することです。
そんなこと言ったって、
人生経験の浅い子供は、
視野も狭く、情報も少ない中で
正しい道を選択できる訳ないじゃないかと
おっしゃる方もたくさんいらっしゃるでしょう。
それはその通りです。
だったら、
世間体だとか、兄弟姉妹、クラスメイと比較するのではなく
「子供の意志」を叶えるために
必要な視野や情報を提供し、
サポートしてあげてはどうでしょう。
また、親心として子供に苦労させなくないとか
失敗させたくないとか思いがちですが、
それは子供の将来のためには
はっきりいって余計なお世話というものです。
なぜなら、苦労や失敗をしないで
人間は正しく成長することはないからです。
一部の例外を除き、
親は子供より早く死にます。
親は子供が死ぬまで面倒を見るということは
現実的に考えて、
できないと考えるのが自然でしょう。
だからこそ、
親は、
子供が一人で生きていくことができるように
してあげる必要があります。
そして、
一人で生きていくためには、
子供に苦労と失敗を積ませてあげる必要があります。
親は、
子供が苦労や失敗をした時に
それを糧にさらに前進できるように
子供の心を支えて、
背中を押してあげましょう。
これが親子における「我と汝の関係」です。
このように人間関係においては
そのほとんどが「我とそれの関係」になりがちですが、
だからこそ、私たちは「我と汝の関係」に憧れます。
私たちは「我と汝の関係」にある時に
その温かさに心が満たされるからです。
でも「我と汝の関係」を構築するためには、
それなりの努力と気遣いが必要です。
すべての人間関係を「我と汝の関係」にする必要は
必ずしもありません。
でもあなたの大切な人には
「我と汝の関係」を意識してはいかがでしょうか?
きっと今よりもっと良い関係が築けるものと思いますよ。
太海



