あるところに、
太陽がマスターをする喫茶店がありました。

その喫茶店は、
コーヒーやケーキを楽しむだけでなく、
マスターに頼めば、
お客の注文通りの天気にしてくれるサービスもあります。
いつもお店の中は大盛況です。
「来週遠足なので晴れにしてほしい」と、
小学生がおねだりに来ます。

「作物が大きくなるように、
すぐに雨を降らして欲しい」と、
お百姓さんがお願いにも来ます。

ある日、おじさんがきました。
おじさんは、ひどく落ち込んでいる様子でした。
しばらく黙ったままだったので、
マスターは、そっと様子を見守っていました。

どれくらい時間が経ったでしょうか。
ようやく、おじさんはこう言いました。
「明日からずっと嵐にして欲しい。
雷のトッピングもお願いするよ」

ここは太陽の喫茶店です。
基本的には、お客さんの注文であれば、何でも叶えます。
しかし、おじさんの様子がおかしいので、
マスターは、その訳を訊いてみました。
おじさんは言いました。
「僕の人生はいつも良いことがないんだ。
いつも失敗ばかりさ。
こないだは好きな女性に告白したら、ふられたんだ。
だから、僕には嵐と雷がお似合いなのさ」

太陽は少し困ったような顔をしていましたが、
やがて穏やかな声で言いました。
「ご注文はお受けしました。
でも明日だけです。
なぜなら、たとえ嵐になったとしても、
それがずっと続くということはありませんから。
太陽はいつか必ず顔を出します。

あなたも今は良いことがないのかもしれません。
しかし、それもずっと続くということはありません。
だから、いつか晴れる日が来ることを信じて、
もう少しだけ、耐えてみてはどうでしょうか?
あなたの心の中にも、きっと太陽が顔を見せますよ。
なぜなら、ここは太陽の喫茶店ですから」
お客さんは、しばらく黙っていました。
そして、こう答えました。
「分かりました。それでお願いします」
それだけ言うと、
おじさんは、お金をテーブルにおいて店を出て行きました。

店を出る時のおじさんの顔は、
すっかり元気を取り戻し、
明日への希望に満ちあふれているようでした。
なぜですって?
それは、マスターの笑顔があまりにもまぶしかったので、
明日もきっと晴れると思ったからです。
【おしまい】
